北極の葡萄園

呑んだワインをひたすら記録しています。

ワインの記録が500回を越えた

 

 
 昔、SFおたくの世界には、こんな言葉があったらしい。
 
 「1000冊読破していない人はSF語る資格無し」
 
 ぬるま湯のように居心地が良くなった現在のオタク界隈では、これに類する発言はあまり見かけなくなった。作品を比較検討するための知識・経験も、優れた作品を発掘する嗅覚も、今じゃ無くてもあまり困らない。「ネットで話題になっている作品だけをセレクションする」「ニコニコ動画で上位の作品だけを遊ぶ」といった風にすれば、自分で選ばなくとも最優秀の作品が集まってくる――それどころか作品の楽しみ方まで教えてくれる――そんな仕組みが出来上がってしまった。「みんなでワイワイ楽しめれば、それでいいじゃないか」と言われたら、そうかもしれない。今、求道者的にアニメやゲームを追いかけているのは、ごく一部の人達だけだ。
 
 なら、ワインならどうなのか?
 
 このワインのログも、ようやく500本まで来た。ログをつける前のワインも合わせれば、だいたい800〜900本ぐらい。けれどもワインが分かったような気がした (あるいは経験蓄積をここでやめて構わないような気分になった) かというと、全くそんな気がしない。全世界をカバーするのは不可能なのは言うまでもないとしても、好きなイタリアやブルゴーニュにしたところで「分からないことのほうが多すぎる」。一本のワインを呑んで美味かったのも束の間、同じメーカーの他の銘柄が意識され「まだ俺は呑んでいないじゃないか」などと思い始めてしまい、かえって未踏の領域が広く見えてしまう、というパターン。
 
 しかも、出遭った一本一本のワイン――この複雑怪奇な有機化合物の混合液――の味や匂いを、自分自身がどのぐらいの精度で確かめているのかも怪しいし、ヴィンテージが違えば別物になってしまうという難しさもあるし。この調子で行くと1000本まで到達しても、多分自分は首をかしげながら、結論らしきものを先送りしながら、ワインを呑んでいそうだ。「1000本呑んでも迷いの森」なんじゃないか。
 
 だからこそ先達の人達は、何千本も呑み続け、ノウハウを蓄積し続けているのかもしれない。語る語らないはともかくとして、ゆっくり時間をかけ、自分なりに納得するまで続けていこう。