ワインを呑むようになって大分経つけど、最近、嗅覚と味覚って凄いと思うことが増えた。
たぶん好みだろうと思うようなワイン*1を開けて最初に匂いを嗅ぎ取る&口に入れてみる瞬間、近い体験だったワインを即座に記憶が掘り起こされて、「以前のものと比べて比べてサクランボ感が強いとか、花梨っぽさが弱い」とかいった比較検討が自動的に起こるのが面白い。体系だったワインの勉強をしているわけじゃないから、正確な用語を使えるわけでもないし、いちどきに何本ものワインを思い出して比べられるわけでもないけれど、最低でも一本の過去のワインは即座に頭のなかにLOADされて、今、目の前で飲んでいるワインとの比較検討が出来る。こうやってワインログを記録しているお陰かもしれないけれども、何ヶ月も前に飲んだワインの風味がわりとちゃんと思い出されるのって凄い。こんな機能が人体に隠れているなんて最近まで気付かなかった。
これが例えば、バッハのブランデンブルグ協奏曲を指揮者別に聴き比べるとか、ベートーベンの『月光』を演奏者別に聴き比べるとかの場合は、そんな風に記憶が即座に掘り起こされることは無い。たくさん聴きまくっているCDや直前に聞いているCDならこの限りではないけれども、何ヶ月も前に2〜3回聞いただけのCDの記憶を即座に想起するのはかなり難しい。ワインよりよっぽど長く親しんでいるはずなのに…。
もちろんこれは、集中の度合いにもよるのかもしれない。生演奏ならともかく、CDの場合、ともすれば「また後日聴ければいいさ」という思いがどこかにあるかもしれない。ワインの場合は「このボトルと出会えるのは今このときだけ」という一回性があるので、どうしても意識を集中して呑まないわけにはいかない*2。けれども本当にそれだけなんだろうか?音楽は、曲の違いがフレーズやパートごとに想起されるのに対して、ワインの場合は、瞬間的に、全体の記憶がゴソッと想起される。このあたりは、やっぱり中枢神経系の配線の問題や、発生学的な由来に左右されるところなのかもしれないし、音楽というメディアが「時間をかけて再生」しなければならないせいかもしれない。とにかくも一ファンとしては、この嗅覚にまつわる記憶の一発LOAD現象がエキサイティングなので、これからも、海馬を派手に刺激するようなワインとの出会いに血道をあげていきたいなと思う次第。