北極の葡萄園

呑んだワインをひたすら記録しています。

【2112】Krug Grande Cuvee (N.V.)

 
クリュグ 並行輸入品
  
今日は、拙著『健康的で清潔で、道徳的な秩序ある社会の不自由さについて』が「紀伊國屋じんぶん大賞2021」の4位に入ったお祝いもかねて、クリュグでお祝いすることにした。クリュグを自宅で飲むのは十数年ぶり(昔はもっと安かった……)。今となってはお祝いごとでもなければなかなか飲めない。
 
まず見た目。黄金色、というより少し山吹色~オレンジ色っぽさのある、なかなか濃い色合い。泡は控えめながら、とてもゆっくりとした速度で立ち上り、そこらのスパークリングワインやシャンパンの追随を許さない感じ。香りは、初手からメレンゲと漬物がぐっときて、立派なリンゴの香りが来る。表現だけでいえば、こういうシャンパンは「漬物系」とこのワインログで呼んでいるワインにいくらでもあるのだけど、こいつはそれらの香りの要素の統合の度合いが高い点、リンゴがしっかり香ってくるのにふくよかさを伴っている点で丁寧だ。思ったよりも、ヴーヴクリコのラ・グランダムの香りに近いとも感じた。
 
で、口に運ぶと果てしないリンゴ風味。リンゴ風味の射程がおそろしく長くて、口のなかに余韻がどこまでも残る。メレンゲのような甘いニュアンスと、漬物、特に奈良漬けのようなどっしりとした感覚がせりあがってくることもある。でもって素晴らしいのは、それらの調和がとれていること。味のスカラー量がいずれも高く、しかもどれもハイレベルでまろやかに口のなかで溶け合う。舌触りのなめらかさも長所だ、こういった諸点でラ・グランダムや(モエの)ドンペリニヨンのくたーっとした境地に近い。それらとの優劣をはっきりと言えないとしても、これは鑑賞するに値する、それでいてハイレベルな癒しのシャンパンでもある。
 
シャンパンの高級路線は買うだけ無駄、よそで飲めばいい」なんて思っていたけれど、これと対峙し、ちょっと考えさせられてしまった。これほどの快楽、これほどの調和を見せつけられる赤/白ワインが同価格帯でいったいどれぐらいあるだろうか。なまじっかなブルゴーニュの特級やへたなボルドーメドック格付けたちと比較した時、このクリュグを凌駕できるボトルはけっして多くないように思う。や、もちろん一本5万10万するボトルを十分熟成させた時のポテンシャルはまた別でしょうけど。実はあまり期待せず抜栓したので、あまりの出来の良さにすっかり驚いてしまいました。

※翌日に少し残して飲んでみた。泡は微発泡になっていて酸味が少し勝つようになったけど、ふっくら複雑な味は健在だった。